0.01㎜の精度で
つくり上げる、
「いのち」の技術。
CT
生産技術担当
林 英樹
0.01㎜の精度で
つくり上げる、
「いのち」の技術。
CT
生産技術担当
林 英樹
林さんは、CTの最重要部である検出器の製造に
生産技術担当として携わっていますね。
業務内容や仕事への想いを教えてください。
キヤノンメディカルのCTは、ハードウエアそのもので他社と差別化するということが基本にあります。最高モデル・ADCT(エリアディテクターCT) Aquilion ONEの面検出器は最大列数320列16㎝。心臓や脳がそっくり収まるこの巨大な検出器は10μm以下、つまり100分の1㎜以下という高い精度でつくり上げられています。CTのスペックの違いは、検出器で決まります。それだけに、検出器製造のための生産技術は、CTグローバルNo.1を目指すキヤノンメディカルの事業や医療スタッフと患者さんの安心・安全に直結しているといえるでしょう。
CT製造部門における生産技術担当として、私はCT検出器ユニットを担当し、生産設計、製造資料の作成、ライン対応、品質維持向上活動などを行っています。生産設計については具体的に "内製"あるいは外注設備の計画、導入、製造プロセスの改善などを行います。責任は重大ですが、やりがいのある仕事だと感じています。
個人的なことですが、私には小学生の時に交通事故に遭い、医療技術によって「いのち」が救われたという強烈な体験があり、将来は医療に貢献したい、という気持ちがずっとありました。大学・大学院は工学部でしたので、日本の医療機器メーカーとして一番のキヤノンメディカルならば、工学の範囲で医療にも貢献できると考え、就職を決めたという経緯があります。
その想いが今も根底にあるので、「いのち」に触れるCTの精密な技術力をより高めるため、日々、品質第一に、技能・技術の研鑽を欠かさないように努めています。
世界最大幅の検出器を
圧倒的な高精度でつくり上げる。
技術の秘密はどこにあるのでしょうか。
10μmの精度でつくり上げるキヤノンメディカルのハードウエア、その技術力の鍵は"内製"にあります。Aquilion ONEは、2007年に世界デビューを果たしましたが、これまでにない巨大検出器の部品をつくるには、部品を加工する設備自体も新たにつくる必要があり、私たちは世界中のどこにも売られていない独自の高精度加工機を開発しました。その設備で加工された部品を高精度で組み立てる専用治具も私たちの部署でつくりましたが、それも内製図面によるオリジナルです。治具は電動機械ではなく人が使うためのもので、部品と部品を所定の位置に置けば10μm以内の精度で組み上がる。そういうコンセプトで設備開発を行いました。
さらに"人の手"による技能・技術がすごい、というのがキヤノンメディカルの培われた財産です。厚生労働省が選ぶ「卓越した技能者(現代の名工)」にも表彰された優れた技能者のOBがいて、私は2006年の入社以来、その方の弟子の弟子、いわば孫弟子のような立場で指導を受けてきました。「設備や治具はこうやって作るんや」「これが作られへんかったら、CTは作られへんのや」とものづくりの技術と情熱を叩き込まれました。名工の技能・技術と情熱があり、設備ができて、精度の高い検出器を誕生させることができたと、私は思っています。
社内の異なる部門が連携して、
医療現場の声に応える品質の
維持向上改善活動を行っているそうですね。
私は、ADCT Aquilion ONE をつくり上げたもう一つの力は、CFT(クロスファンクションチーム)と呼ばれる開発部門と製造部門とサービス部門の3部門が一つになったチームの存在にあったと思っています。三者が大きな目標に向かって一丸となり、「絶対この検出器をつくり上げよう」と当時はお盆休みも返上して対応しました。開発から「この精度でお願いします」といわれたら、私たちも「必ずその精度を出すぞ」と頑張りましたね。
検出器に関しては今も活発に連携がなされ、開発、製造、サービスの3部門で製品のさらなる品質向上を含めた検討を行っています。品質管理は今、私の業務の中で一番大きなウエイトを占めています。例えば、問題点があれば解析を行い、それをさらに開発部の人たちと連携して、「この部品は開発へフィードバックして設計を見直してはどうか」と意見提案する。いわばお客さまと工場と開発をつなぐパイプ役を果たしています。その中で、サービスの方々が伝えてくれる医療現場の声は大変貴重です。実際の現場が困っているという情報があれば精査し、結果を共有し、その上で不足している機能や改善方法を考えます。新たな方法については現場でどう受け止められるかを再びサービスの方々に問いかけ、検証していく。ときには、私たちが予想もしていなかったような声や反応があり、工場でつくっている中では当たり前と思われることでも、「ああ、現場ではこの部品はこう変えた方がいいんやなあ」と気づかされます。
CT製造というものづくりの立場から
経営スローガンMade for Lifeは、
どのように実践されていますか。
医療被ばくの低減にキヤノンメディカルのCTは大きく貢献していて、自分のいるものづくりの場所から、「いのち」のため、患者さんのために寄与できていることに誇りを感じています。検出器は、X線の出力をいかにノイズに負けず効率よく信号に変えられるかが大切で、それをS/N比という割合で表します。そのS/N比がよいほど、より少ないX線で患者さんを診断できます。Aquilion ONE は、第一世代から現在のGENESISにいたるまで検出器も進化を続け、さらなるS/N比の向上を通じ、低被ばくを実現しています。
「いのち」を守る現場に実際の装置がある、ということがすべてのスタートですから、メーカーは良いものをいつでも安定して供給できなければなりません。そのため今は、ものづくりの上流から新製品開発に参画し、生産性や製造プロセスを新たに構築しているところです。生産性を上げる自動化についても、優れた"人の手"を知るキヤノンメディカルらしく従来の高度なレベルを妥協することなく保ち、誰がやっても10μm以内の精度を実現できる技術をコンピュータ制御、画面認識を用いることでライン設計に採り入れるなど大きく変わりつつあり、これからも新しいことに果敢にチャレンジしたいと思っています。
一刻を争う医療の現場では、「いのち」を守るための前提として、装置は「いつも同じように使えなければ困る」ということがあるわけです。装置の品質とは、開発・製造から医療の現場にいたるまでの流れが一つにつながり、サービスも担保しながら、安定したものをお届けすること。そのすべてのプロセスを磨き、未来に向けてキヤノンメディカルの品質ブランドをつくり上げなければならないと考えています。