患者だけでなく病理医の判断材料にもなり得る
レーダーチャートの可能性

医師だけでなく患者にもベネフィットがあるレーダーチャート

市原
西田先生がメーカーごとに「数字」の基準が違うとお話しされましたが、装置の問題だけではないかもしれません。病理医もみんながみんな、肝臓の「数字」に詳しいわけではない。全部の臓器を診ていますからね。普段それほど頻繁に肝臓を診ていない病理医が、いきなり「50代後半の女性で、ASTが59、ALTが58、γが51で、血小板が18.4万、FIB-4 indexが2.99です。お願いします」って言われても、「は?なんですかその呪文は」ってなりますよ、それは。私はたまたま、肝臓の専門医と一緒に仕事することが多い病院にいますので、なんとかわかりますけれど、それはたまたまそういう場所にいるからです。フィブロスキャンのデータが「7.4」と出ていれば、ああ、微妙だから生検してきたんだな、みたいな話もできますが、普通は無理です。専門はさまざまですからね。ということで、高望みをしますと、電子カルテや装置に数値を入力すると、その「解釈」を出してくれる機械があるといいですねえ。専門家でなくてもある程度わかるじゃないですか。でも、こういうこと言うとメーカーの人は嫌がりますね。「診断になってしまうのでダメです」とか。今回の検査では分布曲線のこの辺の値ですよ、みたいなのがスッと出てくるとうれしいんですけど…。
西田
市原先生が求めているのは、まさにAplioのレーダーチャートですね。
※編集注:Multi Parametric Report のレーダーチャート表示機能のこと。 Aplio i900 、Aplio i800 、Aplio i700 、Aplio a550、Aplio a450、Aplio a / Verifiaに搭載可能。
市原
えっ普通にあるんですか!?私のところにこの画像が送られてきたことがなかったので存在すら知りませんでした。迂闊だったな。前言撤回したいくらい(笑)。
西田
これまでは肝臓コントラストがあって、高輝度肝で、血管不明瞭化があって、深部減衰があってという具合に専門用語を並べれば並べるほど患者さんは混乱するばかりでした。「それで私は一体何なの?」と。でも「あなたの脂肪化は0から10の間だと、5.6ですからちょっと多いですね」と言えば、次来たときに「4.9になりました」、「あ、ちょっと減った」となるわけです。BMIとSCD(皮膚から肝表面までの距離)と、肝臓の硬さ、脂肪沈着がレーダーチャートで出るので、チャート面積が小さくなればその人は良くなっているという理解になります。視覚的にも分かりやすいので患者さんに見せてあげると、「ほら、小さくなったよ」、「あ、本当ですね先生」と会話も弾みます。私はプリントアウトしたものを患者さんに持ち帰らせて、 次比較してもらえば効果的だと思います。患者の中には、言われた通りに運動して、甘い物を控えているのにひとつも減らないなんて言う人がいますが (笑) 、レーダーチャートを見せれば説得力が違いますからね。患者のモチベーションにもつながるのでは?と期待していますがどうでしょうか?
市原
そのチャートはぜひカルテに載せてほしい。それ病理の依頼書に書いてくれたら私たちだって楽ですよ。
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鈴木
エコー画像の最後にレーダーチャートが出るように設定しているので、検査後の患者さんに見せていますよ。
西田
レーダーチャートは単純性脂肪肝だと台形になるんです。それがNASHになると線維化のところが突出します。それを見ながら「これは普通の脂肪の塊じゃなく、危険ですよ」とアドバイスできます。
市原
これを見ながらだったら、肝臓専門じゃない病理医だって診断しやすいし、切れ味鋭い所見が書けると思うなあ。
鈴木
プリントアウトしたレーダーチャートを使ってアドバイスするというのは、骨粗鬆(しょう)症の患者さんに説明するとき「あなた今このぐらいですよ」って図入りで出せるのと同じ感覚ですよね。効果的だし、いいと思います。
市原
今、マルチモビディティ(多疾患併存状態)といって、高齢化に伴って、複雑かつ複数の問題点を抱えた患者さんが増えていますよね。高血圧もあるし、足も調子悪いし、腎臓も悪い。そういう患者はたいてい複数のお医者さんにかかっているんですよね。循環器に呼吸器、整形にもかかってる、なんてことがある。そのような状況で、MAFLDのような代謝が原因の脂肪沈着を伴う肝疾患(異常)があったとき、その人を診ている医師は全員が全員、肝臓のことをよく分かってるわけではないということが、これまで以上にリアルな問題になってくると思います。「肝臓に脂肪があるのは一つの問題点だけど、それはそれとして肺気腫の方をなんとかしていかなきゃいけない」というように。で、例えばその呼吸器内科医が、先ほどのレーダーチャートを作ることで「そろそろ肝臓も診てもらわないといけないな」と気づくことができますよね。実際、病理ではそういうケースを見ることがあり、「この人、泌尿器科からの問い合わせだけど肝生検もしているな」という例が増えてきています。そういうときに、泌尿器科の主治医が肝臓のことを分からず、肝臓についてはその分野の専門医に任せてしまおう、という態度でいると、問題点が整理されずに見えなくなってしまっていることがあります。そういうときに、クオリティが担保されたチャートが添えてあれば、現場はとても楽です。レーダーチャートが普及してほしいというのはそういうことです。ぜひ普及機の標準機能として搭載して欲しいなあ。
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NAFLD/NASH診療ガイドラインに超音波が載る未来は?

西田
二〇二一年ガイドライン改訂版が出ましたね。最新版ではエラストグラフィーが診断基準の最初に挙げられると期待していたんですが、残念ながらまだ組織検査でした。超音波診断装置は導入台数も多く、クリニックレベルまで行き渡っています。だからこそガイドラインに載ることによって脂肪肝診療、MAFLDの診療が大きく変わると思うのですが…。
鈴木
海外では、NASHの新規治療薬の治験のときのゴールドスタンダードは生検組織ではなくて、MRIの線維化改善とか脂肪経過で評価するようになっているんですけどね。
西田
MRIですか。
鈴木
そうですね、エコーじゃなくてMRIというところが残念なんですが、少なくとももう生検ではない時代になっています。SWEもATIもまだまだ新しい技術なので、エビデンスが足りないためにガイドラインには載っていませんが、脂肪化や肝硬度、線維化を診る上でMRIとエコーはいい相関が出ています。将来的には超音波が十分確定診断、ゴールドスタンダードになるんじゃないでしょうか。特に西田先生がおっしゃるように他国に比べると日本では超音波の普及率がすごいですからね。小さなクリニックレベルでスクリーニングから拾い上げ、さらには精査まで全部できるようになるのではないかと思います。
西田
二〇一九年にNASHが予後規定因子になるというデータも出てきて、脂肪化も数値で評価できるようになったのが大きなステップでしたね。減衰法の数値化で診断すると明記され、補助診断としてBモードを使用するということになっています。そう考えると、超音波を用いた脂肪肝の診断基準はちゃんとしているなと思いますね。ただ、その基準に合わせていかなきゃいけない、とも言えます。Bモードで肝腎コントラストを診ても三割の脂肪沈着しか診断できません。それを5%を診断するという時代なんですから、やはり私たちもそれに合わせて、数値で診断することをスタンダードにしていかないとダメですね。
鈴木
そうですね。特にBモード所見、いわゆる高輝度肝とか肝腎コントラスト、深部エコーの減衰、脈管の不明瞭化などのBモード所見ですが、不明瞭化とか深部エコーの減衰は装置が進歩しちゃって、ペネトレーションがすごく良くなっちゃった。だから逆にかつての超音波のBモード基準でグレード3とか結構悪い脂肪肝であるはずなのに、不明瞭化せず見えるようになってしまいました。まぁその分、分解能が向上して限局性低脂肪化域が見やすくなったので軽度脂肪肝はわかりやすくなりましたが。つまり、昔の基準が今の装置に当てはまらなくなっている以上、定量化ATIが今後の新しい基準として望ましいですね。
市原
そうなると、まだしばらくは病理がゴールドスタンダードでいないといけないかもしれませんね。昔のエコーなら深部減衰してたのに、機械の性能が向上したために、見えるようになった、みたいに、装置はどんどん進化する。こういう時、昔と今とを比べられるのは「昔も今も変わらない病理組織標本」なのかもしれない。当分の間は、病理をアンカーポイントにして侃々諤々(かんかんがくがく)議論をしていただく。生検=病理がよりどころとなっていればいいですね。
西田
確かに、昔から病理組織診断でずっとやってきましたからね。それは変わらないところですね。
市原
当分、ゴールドスタンダードの期待は背負いましょう。少なくとも、画像側の皆さんがしのぎを削ってる間は耐えておきますが(笑)、放射線画像がDICOM化で統一されたように、脂肪とか線維化の計量について、各社、各機種が同じ数字で表示するような時代が来れば、そのとき脂肪肝系のガイドラインから病理の文字は消えるはずです。あるいは、病理診断の意味が変わる。AIHを見逃したくないとか、薬剤の関与がどうしても引っかかるから「中心静脈周囲をちゃんと見てくれ」とか、「粟粒結核で肝臓に入ってるかもしれない症例です」なんてことが依頼書に書いてあるような、よりマニアックな診断のための武器となる。そうなることを願っています。「血管内悪性リンパ腫は肝臓に針生検を刺して、それを迅速組織診と細胞診に出すと分かりやすいと聞きました」とかね。「NASHでは肝生検しなくなったねー」みたいな。
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これからの超音波は「オールインワン」であるべき

鈴木
現時点でのNASHの問題点のひとつに、いまだに消化器内科医でもNASH、NAFLDを重く考えていない人たちがいることがあります。そういう人たちは「痩せて痩せて」というばかりで本質的なフォローをしないんです。しかし今後、検査所見について統一化を図り、画像検索できるようになると変わってくるかなと考えます。あとはNASHについての情報の共有化が大切ですね。例えば臨床的には糖尿病や高齢、あとPNPLA3の遺伝子多型がマイナー型だと増悪しやすいということが分かってきています。今後はNASHもしくは線維化進展に関わる因子を病理や検査技師さんと共有できるように、データを臨床側から洗ったうえで提供すれば、もっと有効な情報の共有化ができるんじゃないかなと。そういう情報を閲覧することで、自分の患者さんが今どの程度なのかが分かるようになると思います。
西田
特に日本人をはじめ、アジア人はNAFLDになりやすい傾向があるので、鈴木先生がおっしゃったような消化器内科でNASHに向き合わない人がいるのは残念ですね。実際にBMIが低くても日本人はNAFLDになりやすい。欧米であれば、BMIが増えるとNASH、NAFLDというのは当然増えてくるんですけど、アジア人はBMIが低い人でもなりやすいということを意識して、きちんと治療介入すべきだという話があります。ちなみにアジア人は人口比で27%ぐらいNAFLDの人がいるといわれています。しかも注意しなきゃいけないのは年々増加傾向にあるということ。日本では五人に一人と言われていたのが、最近では十人に三人ぐらいに増えてきています。やはり生活習慣が変わってきていますし、メタボリックシンドロームが多いことも原因でしょうね。こういう状況からも、消化器内科の先生だけではなく、膠原病や糖尿病など、さまざまな疾患を診ている先生にも入っていただいて、総合的に診る必要があるということでしょう。そういう状況下、超音波検査の立ち位置としては、キヤノンが提唱しているように「オールインワン」であることが有効なのではないかと思います。一台で心臓のエコーもできて頸動脈エコーで動脈硬化も測れて、さらには腎臓の血流も診れるような、汎用性の高い超音波診断装置を出していただいて、レーダーチャートもオプションではなく標準機能として載せていただきたいです。
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座談会は、画面越しにさまざまな症例を映しながら進んだ

鈴木
オールインワンの機能で全身を診るということで言えば、NASH、NAFLDは基本的には肝臓だけの病気として考えてはダメで、全身疾患、全身に関わる疾患だという意識を持つべきです。基本、肝臓の線維化が生命予後の規定因子と言われていますが、肝疾患イベントによる死亡だけでなく脳心血管イベントの死亡率も含めて線維化が関係します。F1、F2位までは心血管イベントへの注意が必要であって、ただ、F3以上では肝疾患イベント、肝硬変や肝癌などになります。全てを含めた一番の死因は心血管イベントです。二番目が肝臓以外の癌の合併で、男性だと大腸癌のリスクが二倍ぐらいになるし、女性だと乳癌が二倍ぐらいのリスクになる。だからNAFLDとNASHがある場合は、他の癌のことも念頭に置かなきゃいけない。死因の三番目にようやく肝硬変、肝癌ということになりますね。特に心血管イベントは線維化が大きく関わりますが、動脈硬化性疾患は、やはり脂肪が多い方がなりやすいというデータもあります。スウェーデンで十四年間にわたり一万人程度の肝生検症例を追跡した結果が二〇二〇年に発表されたのですが、線維化がない、いわゆる単純性脂肪肝も比較対照群に比べると予後は不良であるという結果が出ています。だから線維化だけにこだわらず、脂肪化も評価することが必要であり、そのうえで「線維化は軽いけど脂肪は多いぞ」という場合は心血管イベントの方を注意するべきだし、線維化が重ければ心血管イベントに加えて肝臓のイベントを注意しないといけない。さらに、全体を通して、大腸癌や乳癌もスクリーニングしないといけないということです。現状では、これらをまだ考慮できていないということを、開業医の先生方とか非専門医の先生方にもぜひ知っていただきたいですね。そうした点においても、超音波で脂肪と線維化両方を診られるのですから、最初のスクリーニングからそのあとの経過観察、もしくは関連する違う領域の診断・治療適応の全てを超音波一本でできるキヤノンのオールインワンのコンセプトは優れています。
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鈴木
私たち病理医が大事にし続けてきた仕事のひとつに、患者が亡くなって病理解剖をしたあとのカンファレンス(CPC)があります。「いろんな科の人が関わったね」って言いながら、その患者さんの総括をする、特殊なデスカンファレンスみたいなものです。病理医が臨床医と意見を交わすこのカンファレンスは、昔の医療環境では病理医が中心になってさまざまな臨床医の意見を整理したり、総括したりと活躍していましたが、現在の高度化した医療では専門性が高すぎて、病理医ですら統括できない状況にあります。特にライフイベントに強く関わるような生活習慣病とか循環器系のことについては手が出ない。心臓に関することや、代謝内分泌の話もなかなか押さえきれません。となると、病院の中で「患者全体」を統括する人はもう主治医たった一人しかいないのではないか、ということになってしまいます。しかし、そうではなく、例えばエコーはさまざまな部位を診るわけですし、患者の人生の中で何度も検査する可能性があるわけです。そんなふうに一人を継続的に追いかけていくことができるのだから、エコーも主治医の一人であるっていう感覚を持ってほしいですね、私からすると。例えばある患者の心エコーをやって、肝臓の評価もして、消化管の系統的スクリーニングもしてというのを一台のエコーがやっているのであれば、将来的にはその患者のカルテがエコーの中に記憶されているという状態にまで発展してほしい。さらにいえば、iPadのような携帯端末にデータを飛ばして、ポータブルのエコーで患者を継続的に検査したり、開業医と病理医の僕がエコーを通してカルテを共有できる状態にしてほしいですね。そうなってくると、レーダーチャートはいよいよ役に立つ機能になります。経年保存されたカルテをもとに、レーダーチャートで病気の状態を患者と一緒に確認できます。鈴木先生がおっしゃったように、癌の合併を鑑別するためのスクリーニングもできるし、心血管イベントには「この十年間であなたは減量頑張ったから、過去のリスクに比べると今こんなに低くなってる。結構長生きできると思いますよ」みたいなこともできるかもしれない。そういう意味で、検査する側にとってメリットとなるオールインワンというだけではなく、エコーの装置にカルテデータなどを蓄積することで、患者にとってもオールインワンにもなる、というところを目指してやっていただきたいなと思います。
札幌厚生病院 病理診断科主任部長
札幌厚生病院 病理診断科主任部長
市原 真 SHIN ICHIHARA
  • 2003年 北海道大学医学部卒業
    北海道大学大学院 医学研究科
    分子細胞病理学講座(旧第2病理)博士課程入学
  • 2007年 修了・博士(医学)取得
    国立がんセンター中央病院
    (現国立がん研究センター中央病院)研修後、札幌厚生病院 病理診断科入職
  • 現職   同科主任部長
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  • 本掲載記事のコメントや数値についてはお話しを伺った先生方のご意見・ご感想が含まれます。
  • VerifiaはAplio aの愛称です。
  • [一般的名称]汎用超音波画像診断装置 [販売名]超音波診断装置 Aplio i900 TUS-AI900 [認証番号]228ABBZX00020000
  • [一般的名称]汎用超音波画像診断装置 [販売名]超音波診断装置 Aplio i800 TUS-AI800 [認証番号]228ABBZX00021000
  • [一般的名称]汎用超音波画像診断装置 [販売名]超音波診断装置 Aplio i700 TUS-AI700 [認証番号]228ABBZX00022000
  • [一般的名称]汎用超音波画像診断装置 [販売名]超音波診断装置 Aplio a550 CUS-AA550 [認証番号]230ABBZX00019000
  • [一般的名称]汎用超音波画像診断装置 [販売名]超音波診断装置 Aplio a450 CUS-AA450 [認証番号]230ABBZX00018000
  • [一般的名称]汎用超音波画像診断装置 [販売名]超音波診断装置 Aplio a CUS-AA000 [認証番号]301ABBZX00001000
SPECIAL COLLABORATION PART1
webinar

線維化に進展するようなタイプの
脂肪性の肝縁を拾い上げることが重要

重篤化する成人病の入り口とみられる肝臓の脂肪化。
生活習慣病からクローズアップをして、NAFLD~NASHといった肝臓の病態に取り組む臨床消化器内科医である鈴木康秋先生、病理医の市原真先生、超音波検査士である西田睦先生にそれぞれのお立場から、議論いただきました。

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webinar

ATI、SWEの世界的な標準化こそ
ゴールドスタンダードへの第一歩

脂肪肝の端緒を診断する手段として、超音波診断装置は欠かせないものとなりつつあります。
汎用超音波診断装置に搭載可能となったATI (Attenuation Imaging)とSWE(Shear wave Elastography)の有用性についてそれぞれのお立場からその活用の仕方などについてご解説していただきました。

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鈴木先生 × 市原先生 × 西田先生<br> インタビュー動画

鈴木先生 × 市原先生 × 西田先生
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