ATI、SWEの世界的な標準化こそ
ゴールドスタンダードへの第一歩

汎用機にATIと線維化のSWEが入れば手軽に検査を受けてもらえる

PDFFとの相関もいいATI。課題は標準化

市原
病理診断をするために私が顕微鏡を見ている時間は、勤務時間のうち、だいたい四分の一ぐらいです。他の時間は臨床データを見て考えている。電子カルテも画像も見ますし、臨床医ときちんと連携を取って、必要なときには内視鏡技師や看護師さんにも連絡を取ります。そうやって、ある患者さんに何が起きているのかということを互いに補完しながら連携していくことまで含めて病理診断なんですね。もし私が、「病理組織診断は絶対だ」と信じていれば、顕微鏡だけ見ていればいいんですけど、はっきり言って顕微鏡だけでは足りません。ですから、臨床医に道具として使っていただくときに、例えば肝生検を採ってきた主治医がまだ十年目ぐらいですっていうときには、ほかの三十年目の医師から聞いた内容などと照らし合わせながら、二人三脚で診ていくようにしています。臨床医もありとあらゆる病気に詳しいわけではありませんから。エコーも含めて臨床情報と病理診断を合わせないと、肝炎の診断はできないんです。まったく無理ですね。プレパラート見て「これ薬飲んでるでしょう?」って言えたら相当な達人ですよ…。私は割と言いますけどね(笑)。ただ、言いはしますが、正式な診断書にはなかなか書けません。その代わりに電話で言います。「先生、念のため聞きますけどこの人、なんか飲んでますよね?」とか。そこで「飲んでます」という答えが返ってきたら、「なんで書かないんですか?」と、軽く説教ですよ。それくらい、肝臓の診断は私(病理医)だけの判断では決めきれないということなんです。できればエコーの情報をもっと活用したいのですが、私にはエコーは難しいですね。カルテをいじってもSWEのデータまでたどりつけないです。 エコーの画像を見て、線維化と脂肪沈着を判断するには、やはり技師さんに電話して聞かないといけません。私が本当に知りたい情報は、SWEや脂肪沈着の度合いを様々なモダリティを使って評価した人の、生の声ですね。病理の依頼書には硬さの度合いとして、~kPaという表記があるので、まあある程度は分かるのですが、やはり相談するに越したことはない。結局、難しい症例は全部電話です。
西田
なるほど。それだけ緻密にアプローチされていれば、診断率は正確な方向にいきますね。
市原
むしろ逆だったりして(苦笑)。
西田
診断は臨床医、技師、病理医も含め、複数の観点から下すのが一番精度が高まりますよね。ですから情報を集めるのが一番いいことだと思います。ただですね、この忙しい臨床の中ではどうしてもコミュニケーションが取りづらいことがあります。本来だと病理の先生や消化器内科の先生とお話ししたいところではあるのですが…。そういうことを鑑みても、例えば脂肪肝、線維化が非常に注目されていますので、肝臓の線維化の超音波エラストグラフィーが診療報酬を二〇〇点取れるようになって簡単に測れるようになったのと同様に、脂肪肝も囲い込みをするのなら、脂肪化測定も保険点数二〇〇点取っていいんじゃないかと思います。ATIを使えば二分ぐらいで測れますから。実はSWEよりATIの方が簡単でばらつきが少ないという印象があります。
鈴木
たしかに。簡単でかつ再現性がとても良く、しかも検査不能例が少ない。
西田
そうなんです。脂肪化の測定は本当に簡単なので、健診施設でこそ使ってほしいと思います。また、汎用機にATIと線維化のSWEを入れてほしい。健診施設でATIとSWEで手軽に検査を受けてもらえば、脂肪肝を囲い込んで、その中からより危険なNASHのようなタイプの10%ぐらいの人たちを絞り込んで、専門医に紹介したり、消化器内科にコンサルトをかけるようなシステムができるといいんじゃないかと思うんです。北海道大学病院ではフィブロスキャンで脂肪化とCAP値、あとはTE(Transient elastography)を撮ってますが、フィブロスキャンは決して普及しているわけではない。かといって、針生検をメインにするわけにもいきませんから、やはり超音波で簡便に脂肪化と線維化を測る方が効率的です。鈴木先生はどうされていますか?
鈴木
うちも超音波で脂肪と線維化測定をしています。また、八年ほど前からMRIエラストグラフィーとPDFF(MRIによる脂肪測定)をやっているので、脂肪肝の人には評価としてMRIで脂肪と肝線維化の測定をしています。
西田
MRIだとスループットとコストの問題があると思いますが…。
鈴木
おっしゃるとおりです。一般論としてはMRIでエラストやPDFFができる施設は限られますし、さらに脳外科など他科からのオーダーに応えるのが精一杯、オーダーが通ってもひと月先というような施設が多いのが実情です。それにコストがかかることも事実です。うちが例外で、中規模病院と言いつつも地方の病院なので、そこまでMRIの需要がないためにオーダーが通ります。検査ができるから評価しているという感じですね。
西田
施設によって特性があるとはいえ、MRIが撮れることは非常にいいですね。現状では脂肪化測定はPDFFがスタンダードになりつつある感じですし。加えていえば、ATIとPDFFは結構いい相関が出ますよね。 ということは、エコーでも十分脂肪化は撮れるし、およそ90%を超えるぐらいの感度が出てきているのでいいのかなと思いますが、いかがでしょうか?それに超音波検査は太った人が苦手という意識が皆さんあると思うんですが、ATIは安定してとれます。MAFLDは腹囲が診断基準項目の一つで、男性で90㎝以上とあります。となると、「90㎝が来るんだ」と超音波技師としては少し憂鬱になりますけど、ATIについてはそれほど心配が要らない。しかも操作性もいいんですよ。ATIのボタンを押せば、プローブを換えることなく、血管のないところを選んでFOV(Field Of View)を置けば二分とかからず測れます。そういう点でもATIは薦められますね。
鈴木
たしかに皮下厚に左右されず、測定不能がないというのは非常にいいところだと思いますね。

ATI、SWEの世界的な標準化こそ
ゴールドスタンダードへの第一歩

市原
臨床データを見たい病理医としては、ATIやSWEのような機能というのは、汎用機とかスクリーニングに使う装置に搭載されていてほしい。術者全員が毎回できる体制を作っていただけるとうれしいですね。肝臓診断に長けた専門医の方々は、病理診断依頼書の書き込みも非常に詳しくて、「NASH疑い。ただしアルコールごくまれに飲むという情報あり。若干信頼ができない」とか書いてあるわけです。そういう人から依頼された病理診断では、私があえてカルテを開いて元画像を見なくても、依頼書に書いていただいた情報と病理組織像とで十分な診断が行えます。でも、健診センターのスクリーニングで引っかかったあと、依頼書を書いているのが肝臓専門医ではない、などと言う時に、せっかく測定した細かいデータ・数値が依頼書に書かれていないことがあります。超音波検査室では使っていても、病理までデータがたどりついてない。
そういうときは診断に苦労します。
ATIやSWEを全員が当たり前に使っていて、電子カルテにワンボタンでそれが反映されるっていうシステムがあれば、すごく診断が楽になり、精度も上がると思うんですけれど。
西田
技師の立場として臨床の先生にATI、SWEの数値をぜひ診療に使ってくださいと言うには、ワールドワイドにユニバーサルに使える値でないとなかなか難しいですね。出る値が装置固有のものだと患者は毎回同じ装置で撮らなければいけません。例えば機種毎に出る値が少しずつ違っていたら、それだけで信頼が薄れてしまいます。ですからメーカーも機種も問わずに同じ値が出てくれると、使う側としてはありがたいですね。ただ、脂肪化については出てくる値が非常に安定してるので、それがある程度可能になるのではないかと思います。フィブロスキャンもプローブが二種類あって、プローブが違ったらこの値は変えなきゃいけないんじゃないかという疑義がありましたが、結局同じ基準値として使っていいということになりましたね。
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鈴木
そうですね。
西田
そうやって標準化が行われれば、健診センターでも精密検査の施設でも使えるようになります。さらにはガイドラインにもまず超音波のエラストグラフィーと脂肪沈着程度を測ってください。難しいときには病理組織、生検による組織診断をしてくださいという具合になるかもしれませんね。
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北海道大学病院 医療技術部 部長/病院長補佐
北海道大学病院 
医療技術部 部長/病院長補佐
西田 睦 MUTSUMI NISHIDA
  • 1983年 北海道大学医学部付属臨床検査技師学校卒業
    医療法人太黒胃腸科病院 超音波室 勤務
  • 1989年〜2013年
    北海道大学医学部保健学科 非常勤講師兼任
  • 2006年 札幌医科大学大学院医学研究科放射線治療診断学卒業・医学博士取得
  • 2006年〜2019年
    北海道大学病院 診療支援部 検査・輸血部 副技師長
  • 2010年〜北海道大学病院 超音波センター 副部長兼任
  • 2013年〜2019年
    北海道大学医学部保健学科 臨床指導准教授兼任
  • 2019年〜北海道大学医学部保健学科 臨床指導教授兼任
  • 2019年〜2021年
    北海道大学病院 検査・輸血部 臨床検査技師長
  • 2021年4月~北海道大学病院 医療技術部 部長/病院長補佐
  • 本掲載記事のコメントや数値についてはお話しを伺った先生方のご意見・ご感想が含まれます。
SPECIAL COLLABORATION PART1
webinar

線維化に進展するようなタイプの
脂肪性の肝縁を拾い上げることが重要

重篤化する成人病の入り口とみられる肝臓の脂肪化。
生活習慣病からクローズアップをして、NAFLD~NASHといった肝臓の病態に取り組む臨床消化器内科医である鈴木康秋先生、病理医の市原真先生、超音波検査士である西田睦先生にそれぞれのお立場から、議論いただきました。

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リモート座談会 脂肪肝を入り口に、「全身診断装置」として期待されるエコーの未来像
webinar

患者だけでなく病理医の判断材料にも
なりえるレーダーチャートの可能性

脂肪肝を診断から患者さんへの生活習慣の改善指導まで。
超音波で得られるメリットをいかに活用するのか。
肝臓から視野を拡げて全身を診ることのできるオールインワンな超音波の有用性について意見交換していただきました。
肝臓から全身へ、肝臓学のプロフェッショナルが見つめる未来についての熱いディスカッションです。

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鈴木先生 × 市原先生 × 西田先生<br> インタビュー動画

鈴木先生 × 市原先生 × 西田先生
インタビュー動画

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