打率四分五厘。でも無駄な空振りはない。
- 花田
- 膵臓癌のリスク因子が多い人に地域の診療所で腹部エコー検査を行い、わずかでも疑わしい場合には我々の尾道総合病院に来ていただいて、EUSなどの検査で膵臓癌の早期発見を目指すのがいわゆる「尾道方式」と呼ばれる体制です。エコーを最初のきっかけにして病診連携(中核病院と診療所の連携)に取り組んでみて、どのくらいの成績が出るかを測ってみたのですが、ある程度目処がつくまで10年かかりました。そのデータを見てみると、意味がなくはなかったな、と思います。ボクらの打率は野球に例えると四分五厘です。1万2260打数555安打。裏を返せば九割五分の方は空振りです。ホームランが四分五厘しか出ないやり方を是とするか否とするかは、我々ではなく皆さんが判断することでしょう。ただ、空振りのように見える九割五分の中にたくさんのフォローアップ例が出ていて、そこから早期膵癌も見つかっていることを加味すると、決して無駄な空振りではなかったなというのが実感です。
- 岡庭
- 尾道の開業医の先生方は超音波診断装置を持っていらっしゃるのですか?
- 花田
- 装置を持っている人は多いのですが、膵エコーまでやられているかといえば疑問です。日常診療の延長と考えると一人にかけられる時間はおのずと決まってきますから。ただ、自身がもともと消化器内科医で、大阪とか東京など首都圏で研鑽を積まれた方は、いい装置を持って帰ってきて、通常診療とは別に時間を設けて取り組む先生もいらっしゃいます。ただ、多くの先生はそうではない。標準化については道半ばという感じですね。
- 岡庭
- 通常のスクリーニングに飲水法などを加えても15分くらいでできることが多いと思いますが...。
- 花田
- エコーで15分というと、診察全体ではもっと時間がかかりますよね。診療所では膵癌の検診だけを行っているわけではないので、なかなかそこまで時間を割くことはできないというのが実状でしょう。
- 岡庭
- 確かにそうですね。
- 花田
- 多くの場合、お腹の触診の流れでプローブを持ってきて、腹部エコーをやる。そのくらいの時間しか取れないのです。
- 岡庭
- 膵臓だけなら5分くらいで診られるかもしれませんね。
- 花田
- そうですね。危険因子が多い患者さんの場合には、膵管拡張だけは診てくださいとお願いしています。
- 岡庭
- それは私の地元でも同じですね。多忙な開業医の先生方に検査をお願い出来るのは5分が限界かもしれません。
- 花田
- エコーに熱意のある先生だと、ちょっと嚢胞が見えたりすると膵臓全体を診ようと時間を掛けてくれたりします。
- 岡庭
- 逆に、中途半端にやるくらいなら、やらない方がいいというご意見をお持ちの先生もいらっしゃいますし、超音波に携わる技師さんの中でも温度差はありますね。