膵臓癌の早期発見に必要な超音波診断装置
飯田市立病院 消化器内科部長 岡庭 信司 先生
膵臓癌が早期発見困難な理由として、早期には自覚症状がなく進行癌になってから自覚症状を認めることや、膵臓の周囲には胃や十二指腸といった消化管が存在するため超音波検査での描出が困難なことが挙げられます。
飯田市立病院の岡庭信司先生は、超音波による膵胆道領域のスクリーニングを普及させるため、講演に加えてハンズオンやライブデモンストレーションに精力的に取り組んでおられます。
超音波診断装置の性能でこだわっているのは、
高周波プローブを用いた拡大観察。
自分の体を走査して超音波に興味を覚える
私は大学卒業後佐久病院で初期研修を受けましたが、そこで消化器内科の弓野明彦先生にお会いしました。先生は超音波検査と血管造影を熱心に教えてくれました。消化器内科医を志したのは、弓野先生の指導の影響が大きかったと思います。初期研修中に1カ月間小海分院(診療所)に研修に行くのですが、ほぼ毎日同じ入院患者さんの超音波検査を行い、時間があれば自分の体にプローブを当てて、食事やお茶を飲むとどう見えるのか確かめたりしました。佐久病院に戻ってからは、技師さん達に手取り足取り超音波の検査法を教えてもらいましたから、技師さん達も私の師匠ということになります。
その後、新潟の消化器内視鏡学会で仙台市医療センターの藤田直孝先生のご発表を拝聴する機会がありました。先生の提示された画像は圧倒的にきれいで、もっと画像診断について学びたいと感じました。後日施設研修をお願いしたところ快諾して頂き、1年間研修を受けることができました。研修最初の2カ月は超音波検査をひたすら見学しました。ある時「患者さんの超音波検査をやってごらん」と言われました。後で知ったのですが、私たちが行っている超音波診断装置の操作は別室でモニターされており、藤田先生を始め指導医の先生方がご覧になっていました。この時に「超音波検査によるスクリーニングがきちんとできなければ、膵胆道領域の診断精度が低下してしまう」ことを学びました。
'97年に長野に戻り超音波検査や画像診断を普及させたいと考え、竹原靖明先生を最初に研究会にお招きしました。先生のご講演は素晴らしく、超音波検診の可能性を教えて頂きました。その後がん検診学会の勉強会などで先生に同行する機会が増え、先生の超音波検診にかける思いを継承していくことを徐々に意識するようになりました。
仲間の死を超えて《膵臓疾患の早期発見に込めた思い》
仙台市医療センターで研修しているときに実感したのは、初期段階で膵臓癌を診断することの難しさです。当時膵臓は未開の臓器と言われており、拾い上げ診断が特に難しい臓器でした。肝臓癌の超音波診断は既に高危険群が確立されていたのですが、膵臓癌は高危険群の設定がなされていませんでした。
その後、膵管拡張や嚢胞がある人は癌になりやすいということが報告されるようになったため、2㎝の充実性病変より膵管拡張や膵嚢胞を拾い上げるほうが早期診断に役立つのではないかと考え、竹原靖明先生の監修のもと上腹部臓器を対象とした腹部超音波検診判定マニュアルを作成しました。
これを契機にして、超音波検診を普及させることを目的とした勉強会が全国で立ち上がりました。北海道でも膵臓のエキスパートの先生と一緒に超音波スクリーニングを普及させる会を立ち上げたのですが、数カ月後にその先生が膵臓癌と診断され、その後お亡くなりになりました。。こういった経緯もあり、私達は膵臓の描出や膵臓癌の早期発見にこだわって活動しています。
その頃にキャノンのアプリオ500が登場しました。この機種が発表された頃から超音波診断装置の性能が大幅に向上し始めたのではないでしょうか。私が超音波診断装置の性能で最もこだわっているのは、膵臓の内部にある膵管や嚢胞を観察するのに欠かせない高周波プローブです。膵胆道領域における高周波プローブの有用性をメーカーが理解してくれサポートしてくれるようになったことが、膵胆道領域の超音波検査の精度が向上した重要なファクターだと思います。
常に誰もが見やすい画像の描出を考える《ライブセミナーの有用性》
以前は膵臓全体を一画面で描出・観察することを意識していましたが、今は各領域毎に詳細に膵臓を描出するように意識を変えました。CT検査もスライスした画像を診ているわけですから、超音波検査も同じでいいのではないかと考えたわけです。
膵臓を領域毎に描出するときに最も注意している所見は、主膵管や分枝膵管の拡張です。膵管に腫瘍が発生すると尾側膵管の拡張が起こります。そのため3㎜以上の主膵管や5㎜以上の分枝膵管の拡張あるいは小嚢胞の有無は重要なUS所見です。ただし、膵管の観察に気をとられるあまり、膵臓の辺縁部の病変を見落としてもいけません。膵頭部、特にGroove領域と鉤状突起部および、膵尾部の病変は胆管・膵管に影響しないからです。膵臓を細部までくまなく診るためには、プローブを持つ手の柔軟さ、器用さも要求されます。グラスを手に取る動作を考えて頂くと良いのですが、親指と人差し指が描く弧とグラスの間に隙間があきます。こういう持ち方をするとプローブを持つ手の可動域が広くなり、結果的に描出できる範囲が広くなります。
ライブセミナーでは、参加する医師や技師からの熱心な視線の中、被験者の膵臓をその場で描出する
どうしたら見たい部位を見られるかを常に考えることが大切。
次に大切なことは、どうしたら見たい部位が詳細に描出できるか、見えないときにどうしたらよいか学ぶことです。そのために役立つのがライブデモンストレーションやハンズオンだと思います。
ライブデモンストレーションを始めた当初は、ほぼ仰臥位の状態で心窩部縦横走査とか左肋間走査を主体とした基本的な描出を主体にしていました。しかし、ライブは走査法を解説しながら検査を行う必要があるため、普段より検査に時間がかかります。そのため、ライブの最中に患者さんが緊張しておなかに力が入ったり、腸管のガスが増えたりして、膵臓が描出しづらくなるタイミングが必ず訪れます。そんな時にベッドを少しギャッジアップしてみたらガスが消えて良く見えた、飲水後に立位や右側臥位などの体位にしてみたら尾部が見えるようになった、そういった体位変換の有用性に気が付きました。最近では、「体位をこう変えたら、ガスはこっちに移動し液体はそれと逆の動きをします」などと、解説しながら体位変換を行うようにしています。
ライブデモンストレーションしていると、参加者から「私はこうやっています」というコメントが来ることがあります。そうしたらその場でその方法を試してみることにより、さらにこちらの引き出しが増えていくのです。
プローブを持つ手は、親指と人差し指が描く弧を深くとり、手首を柔軟に動かせるようにすることが大切
佐久病院にいた頃は月に100〜200例の超音波検査をしていましたが、検査時間は1人当たり10~15分程度でした。一方、ライブデモンストレーションやハンズオンセミナーでは、モデルチェックの段階から本番を含めて同じ被検者を5時間くらい診ることがあります。そのため、前述のように同じ被検者でも精神的なストレスや時間経過により見え方が大きく変化することに気づきました。さらに、同じ超音波検査でもプローブの持ち方、圧迫の仕方、操作法が千差万別であることにも気づきました。人に物を教えることは新たな知識を得る機会でもあり、新たな知識は手技のスキルアップにも役立ちます。
最新機種についても、現場ではどう使えるか、使いやすさがどう向上しているかを厳しくチェックするお二人
膵臓の描出手技については、以前にキヤノンのパンフレットで説明したものがありますので参考にして頂ければと思います。強調したいのは、膵臓全体をなんとなく見るのではなく、膵管や膵内胆管といった構造物を描出し、主膵管や分枝膵管に拡張がないかを評価して欲しいと思います。さらに、膵臓の周囲にある胃、十二指腸、胆嚢、胆管といった臓器や、下大静脈、上腸間膜動静脈、脾静脈といった脈管を意識してみることにより膵臓の辺縁の病変の見落としが減ると思います。
膵臓を診ようと思ったら、抜けのいい画を描出する装置を選ぶことが大切。
早期膵臓癌診断のために装置に求める性能とは
私が病院で使用しているアプリオシリーズは、膵胆道領域を念頭に置いた高周波プローブ使用をメインとした設定になっています。いわゆるスクリーニングで使用するのであれば、アプリオaシリーズはもっと簡単に扱えると思います。
アプリオシリーズの特筆すべき点は、高周波プローブの深部感度が高くなっている点と、同じプローブでも周波数の可変域が広い(広帯域)ことだと思います。通常観察用のプローブであっても広帯域であることから、小病変の詳細な観察から広い範囲の観察まで可能なため使いやすい。膵管や嚢胞など小さなものを観察するときにはズーム拡大して周波数を上げれば抜けの良い画像となり、膵実質を見たいなら視野深度を深く設定し周波数を下げれば全体像を明瞭に見られるように調整できます。
膵臓癌の高危険群を拾い上げるためには、膵管や嚢胞などを抜けがよく描出できる装置を選ぶことが大切です。今後は実地医家の先生方や診療所などで得られた元画像(raw data)が、精検施設の診断装置でさらに詳細に再現できるような病診連携にも対応すべきでしょう。実地医家の先生方がご自分の施設で見ていた元画像(rawdata)をハイエンドの診断装置のモニタを通して見ることにより、精検施設だけでは気づかなかった新たな画像所見が見つかるかもしれません。
また、アプリオにはProtocolAssistantという機能が備わっているので、領域毎の走査方法や解剖図といった参照画像を検査画面に出しながら検査することも可能です。装置の操作はできるだけシンプルに、出てくる画像はできるだけはっきりきれいに、というのが理想です。多種多様な状況で、いろんなユーザーが使用することにより、新たな知見が蓄積され、診断装置および超音波検査の精度はさらに良くなると考えます。
- 本掲載記事のコメントや数値についてはお話を伺った岡庭先生、花田先生のご意見・ご感想が含まれます
飯田市立病院診療技幹 消化器内科部長
岡庭 信司 SHINJI OKANIWA
昭和61年 金沢大学医学部卒業
東邦大学医学部医学科客員教授/
東京女子医科大学非常勤講師
日本内科学会総合内科専門医・指導医/
日本消化器病学会専門医・指導医
日本超音波医学会専門医・指導医(消化器)・評議員
日本消化器内視鏡学会専門医・指導医・評議員
日本消化器がん検診学会認定医・幹事・評議員/
日本人間ドック
学会認定医・社員
日本胆道学会指導医・評議員/日本膵臓学会認定指導医