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超音波診断情報
US Magazine vol.04

Vol.5 | 特集

対談 ATIが変える肝疾患の未来

組織内の超音波周波数依存性減衰の程度を計測する「Attenuation Imaging」。
超音波診断のあり方について、熊田卓先生と飯島尋子先生のお二人にお聞きしました。

疾患の手前で肝臓をマネージメント

飯島
私が医師になった頃は、まだC型肝炎が発見されていない頃で、肝癌が非常に多かったんです。結構早期といえる、3㎝ぐらいで見つけたにも関わらず、手術をしても術後に亡くなる人が多かったので、できるだけ早い段階で肝癌を見つけたいというのが、肝臓学を目指した最初のきっかけになります。
熊田
私は当初、小児科をやろうと思っていました。それが入った病院の消化器の部長先生がすごい先生で、いろいろ教えていただくうちに消化器に興味を持つようになって。我々が医師になった当時は肝臓に対する処置の方法というのは、ほぼない状態でした。よく憶えているのは、黄疸になって腹水がたまった状態で入院してくる患者さんはひと月くらいするとみんな亡くなってしまっていました。そうした方を病理解剖するとたいてい肝癌があった。予後の悪さでいえば、現在の膵臓癌のような状態ですね。それでなんとかしないといけないということから肝臓を志したわけです。
飯島
肝癌については、MRI造影剤Gd-EOB-DTPA(以下EOB-MRI)の登場によって大きく状況が変わりましたね。熊田先生はEOB-MRIにも詳しいので、そのあたりをお話しいただけますか。
熊田
2007年の秋頃にEOB-MRIが発売されて2008年以降は、EOB-MRIの検査を多く実施しました。EOB-MRIの何が画期的かというと、今まで超音波で見えなかった腫瘤が見えるようになったということですね。EOB-MRIを参照して超音波を再度見直すことで、超音波単独では見えなかった腫瘤を検出・生検し、組織学的に癌か癌じゃないかを確認していました。当初は病理の先生によって意見が分かれることもあって現場は若干混乱したのですが、EOB-MRIによって癌の診断方法が大きく変わったことは事実です。
飯島
例えばB型肝炎などは再生結節が非常に大きく、Bモードでは肝癌がどうかの判断に迷うこともあるのですが、経年により発癌の可能性も高くなり、それをEOB-MRIを用いることでフォローアップのタイミングも取りやすくなりました。これは熊田先生の論文のおかげですね。患者さんに対して、「このくらいの期間をおいたら、このくらいの大きさになることがあって、そうなると癌の可能性が高いので次の検査はいつにしましょう」というふうに検査スケジュールを具体的に説明できるようになりました。
熊田
超音波の役割もそこからちょっと変わった感じがあります。EOB-MRIで見つかった結節をフォローするのに、リアルタイムで超音波とMRI画像がシンクロするFusion機能が普及しましたね。
飯島
新しい肝癌のガイドラインにもあるように、肝癌の検出においてはEOB-MRIに勝るものは今のところはないですよね。しかし、リアルタイムに血流の評価をすることに関しては圧倒的に超音波が優れています。また、ガイドラインにも記されているとおり、多血性の腫瘍の診断には造影超音波が一番いいですね。
熊田
EOB-MRIは造影剤の量が少ないので、タイミングが合わないと染まらない場合があるのですが、そうした場合に造影超音波をやると、染まったということはよくあります。この造影超音波画像をもとに、これは治療が必要な癌かどうかを診断できる。やはり超音波の役割は、EOB-MRIと相補的というか、お互いの画像特性を利用するという形でうまくいっているだろうという気はしますね。
飯島
特にモーションアーチファクトが出やすい部位に関しては、やっぱり超音波は欠かせません。
熊田
やっぱり左葉に関してEOB-MRIは弱くてアーチファクトが出てしまうことがあるので、時間分解能が良い超音波にしかわからないという場合もありますね。
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超音波の果たすべき役割について議論を交わす両先生

線維化の診断基準作成に関して

飯島
今、最も力を入れているのは、肝臓の線維化診断です。熊田先生が超音波医学会の脂肪肝診断基準作成委員会の委員長として、最近話題の脂肪肝とか非アルコール性脂肪肝炎(以下 NASH)の非侵襲的な診断法を中心となって確立しようとされているところです。難しい問題が山積していて、まだ実現には至っていないのですが。
熊田
肝臓の線維化を測定するということで言えば、最初はTransient elastography(以下 TE)という手法が独占している状態でしたが、キヤノンをはじめ、各メーカーの超音波診断装置でもShear wave elastography(以下 SWE)が可能になってきました。飯島先生のすごいところは兵庫医大病院の超音波検査室に、ほぼすべてのメーカーの超音波診断装置を揃え比較したことですね。患者さんを診断するときに、それらの装置を使って比べてみて、肝臓の線維化を数値化するときに装置毎の数値のばらつきが少ないことを証明し、肝臓学会の学会誌である「Hepatology Research」に投稿されました。この成績によって、線維化を診断するときに、数値がメーカー毎に違うんじゃないかという疑念に対して、「ほとんど違わない」と答えられるようになりました。さらには千葉大の山口先生とともに人体とファントムのデータの両方を比較して出された。これによって、装置による数値のぶれがおおよそ問題ない範囲に収まっていることを証明していただけました。非常にありがたいと思っています。

肝臓の線維化が慢性疾患のゲートウェイ

飯島
肝臓は線維化を経て機能が低下し、肝癌に至ることが多いことがわかってきたわけですが、そのきっかけとしてC型肝炎の経過に着目したことがありますね。現在、C型肝炎は直接作用型抗ウイルス薬 Direct Acting Antiviral(以下 DAA)でほとんどが治る時代になりましたが、C型肝炎が治っても発癌することがあります。それはどういう症例から発癌するかというと、やはり肝臓が硬く線維化してしまった症例からという傾向があります。
すなわち、肝硬変が進んだ症例は、いくらC型肝炎が治ってもある一定の確率で発癌してくると考えられます。もちろん、さまざまな遺伝子学的な要因などもあると思うのですが、熊田先生はどうお考えですか。
熊田
まさにその通りです。確かに肝硬変の人でもC型肝炎はDAAで治るようになりました。治るというか、ウイルスがいなくなるようになりました。しかしながら、患者さんが安心していると後で癌が出てくる。肝硬変の段階で治療した場合、後で癌化する比率が高いのは、研究者が皆感じていたことだと思います。当時は肝臓の線維化を測る方法は肝生検しかありませんでした。肝生検は侵襲性も高く、肝臓に針を刺して組織を採るということは、出血等の合併症の危険性もある。得られる組織も小さく、サンプリングエラーもあって診断がぶれもありました。そのため病理の先生達の間でも意見が一致しない例も多く、臨床が振り回されていた感じもあります。そういう状況から、侵襲性がない超音波診断装置で肝硬度を測れる手法ができたことは、非常に画期的だったと言えます。
飯島
線維化を測定する装置といえば、2000年ぐらいにTEが登場して、世界で使われるようになりましたが、私もその頃から使う機会を得ていました。残念ながら、当時は保険の適用もなかったので日本ではそれほど普及していない状況でしたね。ただ、世界に目を移せばTEを使って多くの論文が書かれ、これに刺激される形で多くの超音波メーカーが肝臓の硬さを測る機能を開発し始めたということも事実でしょうね。
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兵庫医科大学病院超音波センターは、キヤノンのAplioシリーズがずらりと並ぶ

汎用機で肝硬度が測れるようになりつつあり、
多くの現場で広く使われる可能性が高い

熊田
ちょっとTEの弱点をいいますと(笑)、Bモードで肝臓が出てこないことです。だから我々みたいに超音波のBモード画像に慣れ親しんだ人間からすると、どこを測っているかわからない。そうしたこともあって日本でTEを使用している施設はかなり限られていますよね。超音波を一生懸命やっている病院にはあまり入ってないというのが実際でしょうか。通常のBモードを見ながら、どの部分を測っているかがわかる超音波のSWEが登場したので、それが我々としては受け入れやすかったという感じがしますね。
飯島
TEの場合、画像を参照できないので、うまく測れているかどうかがわからないわけですよね。経験を積んでようやくわかるようになる。
熊田
今はTEが肝生検の代わりとして同等に認められていますが、SWEは残念ながらまだそこまでの地位は確立していません。
飯島
そうですね。2016年のヨーロッパ肝臓学会の診断基準でもTEがゴールドスタンダードとして認証されていますが、SWEはまだデータや論文数が少ないのでもう少し蓄積が必要とされています。
熊田
超音波のSWEは汎用機など、上位機種でなくても肝硬度が測れるようになりつつあるので、多くの現場で広く使われる可能性が高い。それによってエビデンスが集まってくれば、今後日本ではこちらを診断基準に採用するように移行するかなと思っています。
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飯島
日本消化器病学会雑誌に総説を書いていますが、キヤノンの場合、上位機種はもちろん、汎用機種のXario 200 にもSWEは搭載されています。クオリティについても上位機種とほとんど変わらないと聞いています。また、どこを計測したら良いかがわかる、剪断波の伝搬状態を可視化したPropagation mapがあります。これは開業医の先生方が使いやすい機能だと思いますので、今後の状況はかなり良くなる見込みがありますね。
熊田
そうした機能の開発や改良については、今後も飯島先生にご指導いただいて、さらに研究を深めていってほしいと思っています。
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具体的な脂肪肝の数値を提示することで
患者さんのモチベーションが向上してきた

ATIが変える肝疾患の未来

熊田
線維化の前段階にあたる脂肪肝の研究に取り組んだのは、2011年くらいのことです。検診結果をまとめてみると、異常所見として一番多いのは脂質異常症ではなく、脂肪肝という事実がありました。超音波検診を受けた人の30~40%が脂肪肝ということがありました。それで、脂肪肝をきちんと診断できるようにしなきゃいけないという目的で2011年頃に飯島先生にも参加いただいて日本超音波医学会で脂肪肝の超音波診断基準の小委員会を作ったんです。
最初の頃はBモードを使って肝臓の輝度の高さや肝腎のコントラスト、深部減衰、脈管の不明瞭化という4つの所見で定量化を試み、診断基準を作ろうとしました。しかし、多分に主観的な要素が入りますので、委員の中で全く意見がまとまりませんでした。
肝腎コントラストがあるといっても、ある人にとってはある、別の人にとってはないという具合で意見が異なってしまうんですね。
また装置そのものや、同じ装置でも条件によっても結果にばらつきが生じるため、まとまりがつかなくなりました。
また一方、脂肪肝の診断基準を作る意味があるかということも同時に考えていたのですが、高度脂肪肝、脂肪の量が多い肝臓を持っている人の予後が悪いかというと、必ずしもそうではありませんでした。そういうこともあって、脂肪肝の診断をしても、しょうがないのではないかという感じがあり小委員会は一時停止していました。ところが2015年に消化器で最も権威の高いGastroenterologyに掲載された論文に、脂肪肝の予後を決めるのは、脂肪の量ではなく線維化だということが報告されました。つまり予後推定のためには肝線維化の程度を評価することが求められますが、その前段階としての脂肪肝の拾い上げは必須であるということも明らかとなってきました。現在では超音波の減衰を測定する手法で脂肪化を定量する新しい技術Attenuation Imaging(以下 ATI)が出現し、主観的だった脂肪肝の所見が客観的な数値データとして出せることになり、俄然やる気が出てきました。そこで中断していた脂肪肝の診断基準作成を、2018年ぐらいから再開しました。飯島先生をはじめとする委員の方にもご協力いただいて素案ができたという段階になりました。肝腎コントラストは人によって判断が異なりますが、数値でクリアに判るということで脂肪肝の診断は前進しましたね。
飯島
そうですね。病理の診断基準も大滴性の脂肪滴を5%以上の肝細胞に認める脂肪肝を診断しないといけないと変わったことも大きいですね。今や患者さんが血液検査のデータのように「今日は私の脂肪肝はどのぐらいですか」と聞く時代になって、「あなたの脂肪肝は230よ」という会話が実際に成立しています。具体的な数値が提示されることで患者さんのモチベーションが向上して、少しでも良くしようという動きになってきたことは、医療に大きく貢献していると思います。
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ATIなら数値だから目標を立てやすい

熊田
やっぱり主観的に「こういう状態だよ」と、言葉で説明するよりも、数字を挙げて「前の数値と比べてコレですよ」といえば、患者さんだって自分の努力が足りないということがわかりやすいですし、逆に数値が良くなっていれば喜んで帰られるので、これまでとは大きく違いますね。
飯島
基本的にはNASHという病気が脂肪肝の上に成り立つ病気であるということで、脂肪肝を少しでも早く見つけて、なるべく線維化が進行しないうちに脂肪肝を少しでも良くしようっていうのが目的ですよね。
熊田
脂肪肝の診断基準である5%という脂肪滴の割合を検出できるかどうかがネックでした。たしかに超音波で5%なんて診断できるのかと言われましたし、一方では5%の脂肪肝を診断する意味があるのかという疑問も多くありました。5%という数字がなぜ必要かというと、脂肪肝が肝硬変になると脂肪の量が減り、燃え尽きたナッシュ「Burn-out Nash」という状態になるケースもあるからです。つまり低い脂肪の値を除いてしまうと、本当の意味での進行した危険な脂肪肝を診断できないということになり、どうしても5%という数値が必要であったと理解しています。
このため、超音波でも5%の脂肪肝を測定することが必須となりました。しかし、これを測定するのにはBモード所見ではとても無理で、やはりATIという新しい機能を使うことでかなりの精度で診断できるようになりつつあります。これはとても大きな進歩だと考えます。
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飯島
ちょっとMRIには負けますけどね。MRIは肝臓全体を評価できる点がメリットとして大きいのだろうと思います。超音波診断装置の中では、キヤノンのATIはある程度大きな範囲を評価できるという点で、他の装置より信頼性も高いように思います。ご意見をお伺いした飯島 尋子 先生のご感想
熊田
MRIは診断能は高いけど、検査費用が高価だし、処理能力も低いから、日本人の3割もいるような脂肪肝の診断に使うのはとても不可能ですよね。つまり入り口としては超音波で診断するしかない。したがって脂肪肝をきちんと拾い上げるためには、超音波診断装置を如何に高いクオリティに持っていくかということがすべてだろうなと思います。
飯島
熊田先生の病院のように全例MRIを撮れる施設なんかほとんどないですからね。肝臓の脂肪を測るのにMRIを占拠すると心臓や頭部など他の科から怒られてしまうので(笑)。MRIに関しては私達にはなかなかハードルが高いですね。
熊田
我々も脂肪肝ばかり撮っているとひんしゅくを買ってますから(笑)。繰り返しになりますが、脂肪肝を診るのにMRIを使うことが難しいことは事実です。それではCTはどうかといえば、感度が悪い上に被曝の問題があって何度もできるものではない。
結局、日常の臨床で脂肪肝を診断するのは超音波しかない。しかも超音波なら脂肪の数値に加えて、のちに線維化して問題になってくる肝硬度を測れるという点でも非常に大きなメリットがあると思います。さらに5%の脂肪化という数字が何とかクリアできそうになりつつあるということは一番大きいと思います。
飯島
残る課題としては、脂肪の分布が一律でなく、すごく多いところと少ないところの差があるので、5%を診断する壁になっているというところはありますね。
熊田
そのためには、測定する場所を決めて、そこで判断するようにしないといけないと思います。MRIを使って摘出肝で脂肪を各部位で測定している報告があって、場所によって全く違う数値になっています。ですから、肝臓の一定の部位を基準として、全体をそこが肝全体を代表するという形に決めざるを得ないんだろうなと思っています。
飯島
比較的脂肪がたまりやすい部分、たまりにくい部分というのは把握していますが、キヤノンのATIのように超音波でBモードを見ながら撮れる装置だと、脂肪が多そうな場所とそうでない場所を画像を見て判断しながら撮れるので、そのメリットはかなり高いですよね。
熊田
ATIは計測ROIがかなり大きいですよね。血管や測ってはいけないところが自動的に取り除かれますし、測りたい箇所をきちんと選択できるから、そのメリットは大きいだろうと思いますね。TEはそこができませんからね。
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肝臓の脂肪と線維化の両方を測ることこそ
リスクの高い患者さんの将来を予測する

兄弟のような糖尿病と脂肪肝

飯島
糖尿病などの患者さんにおける脂肪肝の発癌率についてですが、私たちの論文では、慢性肝障害で血糖値が高い患者さんの場合には、血糖値が低い患者さんよりも発癌率が高い、というデータがあるんですね。
熊田
糖尿病専門の外来と組んで研究しているのですが、糖尿病の患者さんは本当に脂肪肝が多いんです。その中でもやはり肝臓として問題がある場合は、線維化が一番問題になると思います。最近、我々の病院で、4000例程度の脂肪肝を10年ほど経過観察したデータを出しました。そこで最初に驚いたのは脂肪肝と診断された患者さんのうち、肝臓が原因で亡くなる人は5%しかいないということでした。それでは何で亡くなったかというと、一番多いのは心血管系の病気で20〜30%、その次に肝臓以外の癌でした。消化器系の癌で膵臓癌が多かったわけですが、肝臓以外の癌で亡くなった方が2番目でした。そして脳血管障害で、その次にようやく肝臓疾患がくるという結果でした。
糖尿病の人というのは心血管系の病気で亡くなる方が多いし、ある意味では、脂肪肝と糖尿病というのは兄弟みたいなものだと思っています。ですから、脂肪肝という診断があったとしても、イコール肝臓病で亡くなる方が多いということではないと思っています。
しかしここで強調しておきたいのはやはり線維化が問題です。心臓血管系の病気で亡くなる方も、肝臓の脂肪の量よりも、肝臓の線維化が進行している人ほど高い罹患率を示しています。そして、癌も結局、線維化が進行している人ほど死亡率が高いというデータが出ています。要するに肝臓の脂肪と線維化、この両方を測ることこそ、リスクの高い患者さんの将来を予測する上で非常に重要だということを再認識させられました。その点、キヤノンの装置では、肝硬度と脂肪化の程度を一画面かつ1回の検査で測れるからすごく良いと思います。他疾患での死亡例が多いということは、脂肪肝というのは肝臓の病気じゃないと思うぐらい他の病気が多いですね。したがって、脂肪肝の診断と線維化を測定することは、すなわち肝臓以外の疾患においても役に立つと考えています。
飯島
私たちのデータでも、脂肪肝、高血圧、糖尿病、高脂血症は非常に合併率が高く、熊田先生がおっしゃった消化器系の癌、例えば胃癌とか大腸癌、膵臓癌などは合併するということですよね。逆に肝疾患からみると、そうでもないんですかね?
熊田
そうですね。肝疾患からみるとあまりはっきりした傾向はないようですね。しかし、肝疾患を持っている人は他疾患のリスクも高い集団であるという認識は持つべきです。だから肝臓の医者であっても肝臓だけ診てたらダメで、他臓器も診ないといけない。
こうした報告事は外国でも認められてきています。2018年に発表された論文では100人の脂肪肝を見た場合、20年程度経過観察したら、多くの人は心血管系の障害とか他の癌で亡くなっていて、肝硬変に至る人は数人しかいなかったという報告です。さらに肝臓で亡くなる人は100人のうち一人か二人というデータも出ているくらいです。つまり、脂肪肝であること自体が他の病気の誘因になること、そして線維化が進むことも誘因にならないという意識を持つことが大切だと思います。ですからこれから超音波診断装置に求められるのは、肝臓に関しては肝硬度と脂肪化の程度が測れることは必要ですが、加えて心臓や血管などの他部位の診断ができることになってくるように思います。
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超音波が普及した日本のアドバンテージ

飯島
現代の食生活や生活習慣では30~40%の人が脂肪肝だと言われています。そうした脂肪肝の方でも、「これはもうちょっと痩せてもらえば大丈夫」という人と「やっぱりフォローしておかないと具合が悪い」という人を振り分けることが非常に重要になります。そういうニーズを考えたときに、線維化と脂肪肝の定量化ができるキヤノンの装置はとても優れた装置だということができますね。
熊田
病院には検診異常など多くの脂肪肝の人が診療に来ます。そのときに本当に危ない脂肪肝はどうやって拾いあげるかということになります。まず脂肪肝を拾い上げて、その中から硬い肝臓を、肝硬度を測って拾い上げることが必要となりますね。二つの検査ができないと、患者さんを絞りきれない。それが可能な超音波というのはとても重要な役割を担うことになります。外国の学会でもそういうフローチャートが作成され、いろいろな局面で紹介されるようになってきています。
飯島
ヨーロッパ肝臓学会(EASL)のガイドラインがとてもよくできているのですが、スタートがメタボリックなんですね。メタボリックがあって、その次に脂肪肝があるかないかという順序になっている。海外ではメタボリックからスタートするというのは超音波診断装置の普及が日本に比べると少ないことに由来しているんじゃないかなと私は常々思っています。言い換えれば、超音波診断装置がこれだけ普及している国は日本ぐらいしかないので、これをアドバンテージにして、日本ではスタート地点を超音波で脂肪肝があるかないか定量的に評価できるようにしていけば、多くの患者さんの役に立つのではないでしょうか。
熊田
血液検査によって線維化マーカーを実現する方法が議論されていますが、非侵襲性やスループットを考えると、日本では超音波が最も適していると思います。もちろん超音波だけで全てをやるのは難しいかもしれないけれども、出来る限り超音波で脂肪と線維化のスクリーニングを行った方がいいだろうという気はしていますね。
飯島
患者さんにとってのメリットが大きく、何より楽ですよね。針を刺す必要もない、痛みもない。プローブを当てるだけの楽な検査ですからね。
熊田
肝臓の病気は、ウイルス性肝炎がなくなって、脂肪肝が大きくクローズアップされてきています。その脂肪肝を膨大な患者さんの中からどうやって選び出すか、さらにその中から問題のある脂肪肝患者さんをどうやって選び出すかというのが問題になってきます。今後、脂肪肝と線維化の両方を定量化できる超音波は非常に有力なツールとなるでしょうね。
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普及機に実装してこその機能

熊田
ATIで脂肪を定量化して指針として示すためには、MRIのproton density fat fraction(以下 PDFF)と比較すればいいのではないかと思っています。
飯島
組織との比較でなくてPDFFで十分ということですか。
熊田
現在では、組織による脂肪化の評価よりもPDFFの方がスタンダードとなっています。ですからPDFFと超音波、両方を持っている施設でまず、数多くの症例を集積し検証していくことが求められます。この検証は飯島先生が中心になって行っていただければありがたいと思います。そして、全国規模のデータを集めることによって、基準値が定められるのではないかと思います。
あと、これはぜひメーカーにお願いしたいのですが、SWEやATIのような機能が、最初はハイエンド機しか装着されないことはある程度仕方のないことだと思います。しかし、こうした機能を本当に必要としているのは、検診施設や診療所などです。従って、検診で使うような汎用機にもぜひこうした機能を搭載してほしいですね。
先ほど飯島先生が汎用機である Xario200にもSWEが搭載されていると仰っていましたが、それはとてもいいことだと思います。脂肪肝の程度を測るATIについてもソフトウェアが必要だけですので、装着することはそれほどハードルは高くないように思います。
すべての超音波診断装置にSWEとATIが実装されて、検診の段階で脂肪肝をきちんと拾い上げてもらうようにすることが、我々最大の希望ですね。そうすれば速やかに危険な脂肪肝の診断ができるようになるはずです。
最初に超音波診断装置で脂肪肝を定量化できるようにしたキヤノンには大きな期待をしています。ご意見をお伺いした熊田 卓 先生のご感想
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  • 本掲載記事のコメントや数値についてはお話を伺った熊田先生、飯島先生のご意見・ご感想が含まれます
  • [一般的名称]汎用超音波画像診断装置 [販売名]超音波診断装置 Aplio i900 TUS-AI900 [認証番号]228ABBZX00020000
  • [一般的名称]汎用超音波画像診断装置 [販売名]超音波診断装置 Aplio i800 TUS-AI800 [認証番号]228ABBZX00021000
  • [一般的名称]汎用超音波画像診断装置 [販売名]超音波診断装置 Aplio i700 TUS-AI700 [認証番号]228ABBZX00022000
  • [一般的名称]汎用超音波画像診断装置 [販売名]超音波診断装置 Xario 200G CUS-X200G [認証番号]230ACBZX00007000
岐阜協立大学 看護学部 教授
岐阜協立大学 看護学部 教授
熊田 卓 TAKASHI KUMADA
  • 1977年 名古屋大学医学部医学科卒業
  • 2000年 大垣市民病院消化器内科部長
  • 2004年 名古屋大学医学部臨床准教授
  • 2011年 大垣市民病院副院長兼健康管理部長
  • 2016年 名古屋大学医学部臨床教授
  • 2018年 大垣女子短期大学看護学科教授
  • 2018年 鈴鹿医療科学大学客員教授
  • 2019年 岐阜協立大学看護学部看護学科教授
  • 日本消化器病学会専門医・指導医
  • 日本肝臓学会専門医・指導医
  • 日本超音波医学会功労会員・専門医・指導医
  • 「脂肪肝の超音波診断基準」小委員会委員長
兵庫医科大学 消化器内科教授・超音波センター長
兵庫医科大学 消化器内科教授・超音波センター長
飯島 尋子 HIROKO IIJIMA
  • 1983年 兵庫医科大学卒業
    同大病院第三内科に初代女性医師として入局。
  • 2000年 東京医科大学 第四内科講師
  • 2003年 トロント大学 トロント総合病院客員教授
  • 2005年 兵庫医科大学 内科・肝胆膵科助教授(兼任)
  • 2008年 兵庫医科大学 超音波センター長
    内科肝・胆膵科 教授(兼任)
  • 2020年 兵庫医科大学 消化器内科教授・超音波センター長(兼任)
    学長補佐(ダイバーシティ推進担当)
    肝疾患センター長(兼任)
  • 日本消化器病学会指導医
  • 日本肝臓学会指導医
  • 日本超音波医学会指導医
  • 日本肝臓学会 肝癌診療ガイドラン作成委員
  • 日本超音波医学会
  • 肝臓のエラストグフィ作成委・脂肪肝ガイドライン作成委員

今回、お話をうかがった時に使用した機器について。

Aplio i-series(アプリオ アイ シリーズ)

Aplio i-series(アプリオ アイ シリーズ)はキヤノンメディカルシステムズ(株)のプレミアムハイエンド装置です。浅部から深部まで、細い超音波のビームを高密度で送受信できる技術により、高精細な画像を描出することが可能となりました。
さらに、血流イメージング技術である「SMI(Superb Micro-vascular Imaging)」は、微細で低速な血流を捉えることが可能です。
また「日常検査で使用するコンベックスプローブと穿刺プローブとの画質差、穿刺時のブラインドの少なさ」そんな要望にお答えするマイクロコンベックスプローブの搭載も可能です。

Aplio i-series(アプリオ アイ シリーズ)
対談動画

対談動画
ATIが変える肝疾患の未来

熊田卓先生と飯島尋子先生のお二人にお聞きした対談の模様を動画でもご覧いただけます。
この機会にぜひご覧ください。

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