地域連携の絆を深めることから
一人ひとりの「いのち」と向きあう。

case02 山口県 医療法人社団成蹊会岡田病院様/長門市医師会様

かつて、すべての医療機関は、自己完結型の医療を目指していました。症状が深刻な場合にのみ、より大規模な医療機関に紹介状を書きますが、基本的には患者さんに対して、快復に至るまでの医療サービスを提供してきたのです。しかしいま、日本全体が人口減少や高齢化にシフトしていく中で、医療のセントラル化と、地域包括型の医療が展開され始めています。さまざまな課題が出現する中、安定した医療サービスを提供し続けるための挑戦の実例を求めて、山口県長門市を訪問しました。

2025年問題が10年以上前に到来している、
長門医療圏。

人口34,357人(※1)の長門市は、日本海に面した山口県北西部に位置しています。かつては、捕鯨の拠点として漁業で栄えた町の人口は、減少の一途。現在の高齢化率は41.5%(※1)、出生率は1.56(※2)ですが、このまま対策が講じられなければ、2040年には総人口が20,555名(※3)、高齢化率50.3%(※3)の町になると予想されています。 団塊の世代が後期高齢者になる2025年問題に国全体が揺れている昨今ですが、長門市ではすでに、過疎化による超高齢化と医師不足の問題が表層化。2018年の現在は、2050年以降の日本の状況と同一の環境といえます。 この状況を少しでも緩和させるべく、長門市内の病院や医療機関は連携し、地域内の医療サービスの品質維持と、未来への継続に挑戦しています。(※4)
  • 長門市役所企画総務部企画政策課による2018年11月31日のデータ
  • 長門市役所企画総務部企画政策課による2014年2月13日のデータ
  • 国立社会保障・人口問題研究所による2018年3月のデータ
  • 長門市では、『長門市人口ビジョン』を策定し、人口減少・高齢化・少子化対策に取り組んでいます。2040年時点での目標値は、人口26,265人、高齢化率39.4%となっています。
そこで私たちは、長門医療圏の中心的な存在として活動している長門市医師会と岡田病院に向かい、最前線での取り組みについて、お話を伺いました。
病院について

DATA 岡田病院

所在地
〒759-4101 山口県長門市東深川888
診療科
内科、整形外科、循環器科、外科、消化器科、肛門科、リハビリテーション科、脳神経外科、神経内科、放射線科、麻酔科、泌尿器科、リウマチ科
病床数
148床(一般型病棟100床、療養型病棟48床)
医師会について

DATA 長門市医師会

所在地
〒759-4101 山口県長門市東深川826-2
会員数
53名
01

Made for Life Special case02 -前編- 「地方医療の挑戦」

先進診断機器とネットワークが支える
岡田病院の“真療”とは

お話いただいた方

岡田病院 理事長・院長 村田高茂

長門市における医療の現状

人口減少は想定内。
次世代型のセントラル化医療に
いち早く対応する地域になる。

村田院長
確かに、長門市は過疎化が進行している町です。高齢化率は、ついに40%を超えました。出生率も山口県内13市のうち11位ですから、ますます退縮が進んでいく予想です。中心部は北浦地区と呼ばれ、JR長門市駅を中心とする市街地や、かつては捕鯨で栄えた県下2位の水揚げ量を誇る仙崎漁港などを有しています。私たち岡田病院も、この地区内にあり、長門の変遷とともに歩んできました。いわば、中心地ともいえる場所ですが、若い人が出ていく傾向が続き、かつてのような活気はありません。ただ、これは長門市が特別というわけではなく、全国の数万人レベルの市区町村では同様の傾向が見られ、予想されていたことでした。
高齢化と人口減少が起こるのは、地域住民だけではありませんでした。医療を提供する側にも起こるのだということを、ここ最近、強く認識させられます。医局制度が廃止されたことで、若い医師が長門市のような場所に派遣されなくなりました。また、昨年だけでも2つの医院が、高齢を理由に廃業されています。当院も、内科に2名、外科に2名、整形外科に1名の医師が在籍していますが、10年前には、それぞれ3名ずつが在籍していました。看護師の数も、8割ぐらいに減少しています。
そのような状況ですが、当然、医療を必要とされる方々はたくさんおられます。どうすれば、医療サービスの質を落とさずに提供し続けられるか。答えは、ひとつでした。地区内の病院や診療所との連携です。まず、私たちを含めて3つの大きな病院で救急体制を組むことになりました。加えて、この3つの病院を中核とし、21(発足当時)の医院を結ぶ、電子カルテ閲覧システムの『医療ネットながと』を構築。診察の迅速化と効率化を図り、医師が少しでも多くの患者さんと向き合えるように環境を整えてきました。

過疎化以外にも、この動きを加速させたものがあります。それは、医療のセントラル化。山口県内には、瀬戸内側と日本海側という地域分けの概念がありますが、特に高次医療は宇部市や山口市などの瀬戸内側に集約されつつあります。これまでは、患者さんの医療を自己完結させることを目標にしてきましたが、これからは、高次医療機関に正確かつ根拠を持って患者さんを引き継ぐ責務が加わりました。そこで必要になったのが、キヤノンメディカルシステムズさんの高度な画像診断システムとネットワークでした。
画像診断システムと医療情報システムの重要性

機器の先には「人」がいる。
そこを理解してくれている安心感。

村田院長
私たちは患者さんに対して、可能な限りの医療を提供する責務があります。正確な診断や検査能力は、その最たるもののひとつ。私の専門は循環器内科なので、心臓カテーテル検査は、とても大切な選択肢です。ただ、患者さんによっては、少し怖かったり、敷居が高かったりすることが見受けられます。高齢化が進んでいるため、都市部のように、事前にインターネットで必要性を調べてくれる方はほぼいません。また、結果を最優先に考えた多少ドライな判断も、町内全員が顔見知りという環境では、ご法度です。ご納得いただけるまで、何度でも根気よく丁寧に説明しています。

そのような環境ですから、CTの検査能力や解析能力が向上したことは、この地区において明るい光となりました。カテーテル検査に近しい画像が得られるようになり、検査のステップを増やすことができたのです。「まずはCTで検査してみて、そこで異常があれば、次の段階にいきましょう」となりました。大腸カメラを用いた検査にも同様の傾向が見られます。

待ち合いスペースに、検査や画像診断システムの案内を置いておくことで、それを見た患者さんから、「実は気になる症状があって、CTの検査なら大ごとではなさそうだから、受けてみたい」と話されるケースが増えてきました。当然、症状悪化の前に診断できる機会が増えますから、町全体の健康増進に寄与しています。大きな変化です。院内に設置するパネルやチラシをつくる際も、人口減少および高齢化地域ということで、キヤノンメディカルシステムズさんからもアイデアをいただき、とても助かりました。患者さんご自身で得た情報を自らで判断した能動性に勝るものはありませんから。
当院のあらゆる場所に、キヤノンメディカルシステムズさんの機器やシステムを導入しています。特にモダリティと呼ばれる、CTやMRIなどの医用画像を撮影する装置は、ほぼすべてですね。以前は他のメーカーのものでしたが、メーカーの撤退や更新時期が重なったことで、導入が進みました。常時の診断から、高次医療機関に連携できるような高精細な画像検査まで、フルに活用しています。
導入が進むきっかけになったのは、何といっても『人』の在り方です。どのメーカーのものを使用しても、機器やシステムにはまれに不具合が起こります。その際に、いかに迅速に対応してくれるかは、とても大切な指標でした。半日以内に必ず駆けつけてくれて、対面とリモートの両面から、復旧を一直線に目指してくれる人たちがいるからこそ、画像診断システムや医療情報システムをパートナーと信じて使うことができるのです。

当院が掲げている理念の『真療』は、患者さんを大切にし、医療技術の習得に努め、関係者と良好な協力関係を築くことなどを基本方針としていますが、そのすべてを底支えしてくれているのが、キヤノンメディカルシステムズさんの機器群やシステム。未来へ力強く歩むためには、なくてはならないものになっています。
医療の電子化が描く未来予想図

未来をともに見据える関係だから
次世代技術の開発に手を挙げた。

村田院長
画像診断システム導入の歴史ですが、私が岡田病院に入ったときには、すでにキヤノンメディカルシステムズさんの機器はいくつか稼働している状態でした。先代によると、1997年に、検査や処方などの医師や看護師の指示を電子的に管理する医療情報システムの『オーダリング』を依頼したことが、最初のきっかけです。以後、画像診断装置の導入や、2007年に行ったこの地域初の電子カルテ導入も、依頼してきました。多くのスタッフがコンピュータに触ったことがない時代から、親身になってさまざまなことを教えてくれたとのことです。
いまとなっては笑い話ですが、マウスの使い方すら知らない人でいっぱいでした。特に先代は、マウスを動かしている時に、机の端まで動かしたものの、まだ目標の場所にポインタが届いていなかったので、机の裏面に折り返してマウスを動かしたという逸話が残っているほどです。そんな人たちを相手に、根気よく接してくれたからこそ、いまの岡田病院があります。
大型機器の導入やサーバの設置、バージョン変更の時には、泊まり込みで作業されます。そうなると、必然的に接する時間が増え、プライベートの話もたくさんします。そこで気心知れたことも手伝って、キヤノンメディカルシステムズさんに他の機器やシステムも頼むことになりました。操作感やインターフェイスはもちろんですが、何よりも有機的な人のつながりが生む、真のユーザーフレンドリーを体感しています。

少し前ですが、営業さんより「協力いただきたいことがある」と連絡をいただきました。なんでも、情報閲覧・統合システムを開発中とのことで、ぜひ評価してほしいとのこと。簡単に解説しますと、紙のカルテと電子カルテの両方の良いところを併せ持った、新しい情報システムです。紙は俯瞰的にさまざまな情報を得られることがメリット。たとえるなら、新聞の見開きでしょうか。スポーツ面を開くと、日本全国各地のさまざまな競技の結果を知ることができます。対してコンピュータは、階層を辿って行ったり来たりすることが手間ですが、知りたいことをとことん知ることができます。

情報閲覧・統合システムは、俯瞰的かつ詳細な情報群の両方が時系列で整理されたもので、これからの診察に必要不可欠なものになりそうですね。将来的には経過図を見ながらオンラインで患者さんと話をしつつ、病病連携というところまでいけるのではないかと期待しています。
地域医療システムという基礎体力

いまの自分があるのは、地域のおかげ。
過疎化に負けるわけにはいかない。

村田院長
多くの過疎化地域が感じていることと思いますが、なまじ、陸続きという油断が存在します。都市部から過疎地域まで、なだらかに傾向が変わっていくため、はっきりとした違いが感じられません。また、公共交通機関も、必要最低限のレベルでは残っています。そのような状況なので、他の地区と比較して何かひとつでも「まだマシだ」と思ったり、いざとなれば「瀬戸内側に行けるから」と感じてしまうと、問題を先送りにしてしまいかねません。
先ほど瀬戸内側に高次医療機関があると話しましたが、移動の難しさやご家族の背景など、行けない環境下の人たちも多数おられます。だからこそ、医療機関同士が連携することで、患者さんが困らないような地域医療の体制づくりが必要不可欠になっています。20前後の大小の医療機関が集まれば、高い専門性を持つ医師もいますし、中核病院には高度な医療機器が導入されています。正確な診断や検査をすることから、患者さんの利益につながるようにしていくことが、われわれ医師の責務。少ないリソースでも、高効率な診断をしていくために、地域一丸の医療体制を推進していくことが求められています。

また、地方の医療の方向性は、専門性を持つ医師の遠隔医療へと向かっています。そのための土台としても、『医療ネットながと』は、なくてはならないもの。ただ単に検査結果や処方、画像など、電子カルテを共有する仕組みに留まらず、地域全体の医療を結ぶ象徴的な存在です。長門市医師会・前代表理事の天野秀雄先生を筆頭に、当院の先代も中心的な存在として立ち上げた、地方だからこそ活用できる資産と考えています。

いま、健康増進と、職員とのふれあいを求めてマラソンをしています。トレーニングは主に仕事後の夜になりますが、郊外を走っていると満天の星空と出会えます。また、早朝の町を走ると、仙崎港で朝のセリが行われていたりもしますね。確かに、過疎化は避けられないかもしれません。しかし、目の前には長門の人々の営みがあり、豊かな自然がある。誰もが未来に向かって歩んでいます。この地に育てられた私は、医療の領域で地域貢献するのだと、走っている時にも再確認しています。
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